IP-KVMおすすめ8選 ATX電源操作・取り込み解像度・PoEで比較
参考価格1万2,880円のSipeed NanoKVM Fullには、PCの電源ボタンを外から押すためのATXボードとケーブルが箱に入っています。4千円ほど高い1万7,099円のGL.iNet Comet(GL-RM1V2)では、同じことをするのに4,565円のGL-ATXを別に買い足します。IP-KVMは値段を上げても、電源ボタンに手が届くとは限りません。
画面の側も同じで、Amazonの商品名に「4K解像度対応」とあるAweSun Cloud KVM Q1は、メーカーの仕様表を見ると最大1920×1080です。ここでは8台を参考価格の順に並べ、取り込み解像度・電源操作・有線LAN・別に要るものを列に分けて見ていきます。
目次(11項目)
先に確かめる:SSHが届かなくなったあと、どこまで外からやりたいか
IP-KVMが役に立つのは、SSHで入れなくなったあとの時間です。カーネルが起動途中で止まった、ネットワークの設定を間違えて自分を締め出した、アップデートの再起動でUEFIの画面から先へ進まない。どれもsshdが動いていないので、ターミナルからは何も見えません。机の下からモニターとキーボードを引っぱり出すか、IP-KVMを1台挟んでおくかの二択になります。
買う前に決めておくのは、その場面で何までやりたいかです。画面が見えればいいのか、BIOSの設定まで打ちたいのか、固まったまま応答しない機械の電源を落として入れ直したいのか、OSを入れ直すところまで外で済ませたいのか。後ろへ行くほど必要な部品が増え、その部品が箱に入っているかどうかが機種ごとにばらばらです。
もう1つは、つなぐ相手のマシンの側です。ATXの電源ボタンを外から押すには、マザーボードのフロントパネル端子に配線を足すことになります。自宅サーバー向けミニPCの比較記事で扱ったような小型の完成品は、ケースを開けてもその端子に手が届かない機種があります。電源の操作まで考えるなら、相手のケースを開けられるかを先に見ておきます。
IP-KVMは切替器ともリモートデスクトップとも違う
IP-KVMの中身は、HDMIを取り込む部分と、USBのキーボード・マウスのふりをする部分を、小さなLinuxの機械にまとめたものです。相手のPCからは、モニターが1枚とキーボードが1つ挿さっているようにしか見えません。そのためOSの種類にも、OSが起動しているかどうかにも左右されず、電源を入れた直後のロゴ画面から操作できます。
リモートデスクトップやVNCは、相手のOSの中で動くソフトです。OSが上がるまでは使えず、OSが固まれば一緒に止まります。KVM切替器は、手元の1組のキーボードと画面を複数のPCで物理的に切り替える道具で、ケーブルが届く範囲でしか使えません。IP-KVMはその「手元」をLANの向こう、ブラウザのタブの中に置き換えたものです。
形で分けると3系統あります。Raspberry Piに載せて組むキット(Geekworm KVM-A3)、単体で完結した小箱(NanoKVM Full・AweSun Q1・Luckfox PicoKVM・GL.iNetの2台・JetKVM)、そしてPCのケースの中に組み込む形(NanoKVM ProのATX版)です。小箱がいちばん手軽で、キットは手間のかわりに中身を自分で選べ、組み込み型は配線が外に出ないかわりにケースを開けて取り付けます。
電源ボタンを押せるかは、値段の順に並ばない
PCの電源ボタンは、押している間だけマザーボードの2本のピン(PWR_SW)をつなぐスイッチです。短く押すと起動、またはOSへのシャットダウン要求になり、4秒ほど押し続けると強制的に電源が切れます。IP-KVMのATXボードは、ケースのボタンとマザーボードの間にはさまり、このピンを電気的に短絡させてボタンを押したのと同じ状態を作ります。電源ランプの配線も通して、いま電源が入っているかを画面に出します。
このボードが付いているかどうかが、8台でばらばらです。NanoKVM FullとKVM-A3は同梱、NanoKVM ProのATX版は本体がケースの中で直接ピンにつながります。GL.iNetのCometとComet PoEは別売のGL-ATX、Luckfox PicoKVMとJetKVMもそれぞれ別売の拡張ボードが要ります。AweSun Q1にはそもそも電源操作の端子がありません。
値段で並べるとこうなります。1万2千円台のNanoKVM FullとKVM-A3は押せる、1万3千円台のPicoKVMから2万円台のJetKVMまでの4台は買い足せば押せる、1万2,999円のQ1は押せない。CometにGL-ATXを足すと参考価格の合計は2万1,664円になり、ATXの配線を最初から持つNanoKVM Proとの差は3,316円まで縮みます。
「4K対応」は入力の話か、取り込みの話か
IP-KVMの仕様には、受け付けられる入力の解像度と、ブラウザへ送り出せる取り込みの解像度の2つがあります。商品名の「4K」は前者のことが多く、4Kの信号を挿しても壊れずに映る、という意味で書かれています。ブラウザに届く画がその解像度だとは限りません。
AweSun Q1はその典型で、Amazonの商品名には「4K解像度対応」とありますが、AweRayの仕様表は最大1920×1080で、fpsは公表されていません。KVM-A3はHDMIをRaspberry Piのカメラ端子に変換する方式で、PiKVMの公式文書は上限を1080p/50Hzとし、60Hzの信号は扱えず50Hzで取り込むと25fpsでしか送れないと書いています。
逆に、取り込みそのものが4Kまで行くのはGL.iNetの2台(4K/30fps)とNanoKVM Pro(4K/45fps、2Kなら95fps)です。ただ、BIOSの画面もOSのインストーラも1080p以下で出るので、復旧の用途なら1080p/60fpsで足ります。4Kが効くのは、相手のデスクトップをそのまま普段の作業に使う場合です。
並べ直すとこうなります
参考価格の順に並べたものです。参考価格はAmazonの表示価格で、値段はよく動くので買う前に販売ページで確かめてください。取り込みの列は公式仕様の最大の取り込み解像度とfpsです。KVM-A3の1080p50は配信が25fpsに落ちる値、AweSun Q1の1080pはfpsが公表されていない値です。
| 製品名 | 取り込み | 電源操作 | 有線LAN | 別に要るもの | 参考価格 |
|---|---|---|---|---|---|
| KVM-A3 | 1080p50 | 同梱 | 1G | Pi 4・microSD・電源 | ¥12,199 |
| NanoKVM Full | 1080p60 | 同梱 | 100M | なし | ¥12,880 |
| AweSun Q1 | 1080p | 不可 | 100M | なし | ¥12,999 |
| PicoKVM | 1080p60 | 別売 | 100M | なし | ¥13,408 |
| Comet | 4K30 | 別売 | 1G | なし | ¥17,099 |
| Comet PoE | 4K30 | 別売 | 1G+PoE | なし | ¥19,899 |
| JetKVM | 1080p60 | 別売 | 100M | なし | ¥20,899 |
| NanoKVM Pro | 4K45・2K95 | ピン直結 | 1G+PoE | なし | ¥24,980 |
電源操作の列を上から読むと、同梱・同梱・不可・別売・別売・別売・別売・ピン直結で、いちばん安い2台が最初から押せる側にいます。2万899円のJetKVMは、有線LANの列も100Mで、1万2千円台のNanoKVM Fullと同じです。この100Mは公式が速度を公表しておらず、実機レビュー(Jeff Geerling、CNX Software)で10/100と確かめられている値です。NanoKVM Fullより8,019円高いのに、取り込みの列は同じ1080p60、有線LANの列も同じ100Mで、電源操作の列はNanoKVM Fullの同梱に対してJetKVMは別売です。表の値で見る限り、値段の差は画質にも回線にも電源操作にも出ていません。
KVM-A3の有線LANはRaspberry Pi 4に内蔵のギガビットを使うので、Pi 4を何で用意するかで決まります。別に要るものの列が「なし」でないのはこの1台だけで、表示の1万2,199円にRaspberry Pi 4・microSD・電源アダプターの代金が乗ります。Pi 4の選び方はシングルボードコンピュータの比較記事の電源要件の話がそのまま当てはまります。
用途から引き当てる
| こうしたい | 候補 |
|---|---|
| 安く、電源ボタンまで外から押したい | NanoKVM Full |
| Raspberry Pi 4が手元に余っている | KVM-A3 |
| ACアダプターを増やしたくない | PicoKVM(相手のUSBで動く) |
| 外出先からVPNを組まずに入りたい | Comet・NanoKVM Full(Tailscale対応) |
| ハブからLANケーブル1本で給電したい | Comet PoE・NanoKVM Pro |
| 相手のデスクトップを4Kで普段使いしたい | NanoKVM Pro |
| ケースの外に箱も配線も出したくない | NanoKVM Pro(ATX版) |
おすすめのIP-KVM8選
1万2千〜1万3千円台:電源ボタンに届くかで4台が割れる
同じ価格帯に4台が集まり、電源操作の答えが3通りに分かれます。KVM-A3とNanoKVM Fullは同梱、PicoKVMは別売、AweSun Q1は不可です。取り込みはどれも1080pまでなので、選ぶ基準は画質ではなく電源操作と、届いたその日に使えるかです。
独自採点の規則(5項目・各5点)
楽天のレビューは商品によって件数が1件から数百件までばらつき、件数の少ないものは1人の評価で平均が1点以上動きます。楽天側でレビューが消えると数字も黙って変わるので、順位付けには使っていません。代わりに、下の規則でスペックから機械的に点を出しています。記事に載せている表の値をそのまま当てはめているだけなので、読者が検算できます。総合点は5項目の単純平均です。用途によって効く項目が違うので、総合点だけでなく項目ごとの差を見てください。
- 電源操作
- 比較表の「電源操作」。同梱・ピン直結(買ったままで電源ボタンを押せる)=5 / 別売(ボードを買い足せば押せる)=3 / 不可=1
- 取り込み
- 比較表の「取り込み」。4K30以上=5 / 1080p60=4 / 1080p50(配信は25fps)とfps非公表の1080p=2
- 回線
- 比較表の「有線LAN」。1G+PoE=5 / 1G=4 / 100M=2
- 届いてすぐ使えるか
- 比較表の「別に要るもの」。なし=5 / Raspberry Pi本体が要る(Pi 4・microSD・電源)=1
- 値段の入りやすさ
- 参考価格。¥13,000未満=5 / ¥15,000未満=4 / ¥20,000未満=3 / それ以上=2
取り込み・電源操作・有線LAN・別に要るものは各社の公式仕様ページとPiKVM・Sipeed・Luckfoxの公式文書による値で、上の比較表に載せているものと同じです。仮想メディアの対応は1台(AweSun Q1)で公式の記載を確かめられなかったため採点に入れていません。楽天のレビューは使っていません。
1万7千〜1万9千円台:4K30とギガビット、ただしATXは別売
GL.iNetの2台は中身が同じで、違いはPoEで給電できるかどうかだけです。取り込みが4K/30fpsに上がり、有線LANもギガビットになります。そのかわり電源ボタンを押すにはGL-ATXを足すので、総額はこの帯の上のほうへずれます。
2万円台:値段の差がどこに付いているかが違う2台
JetKVMとNanoKVM Proは4千円ほどしか違いませんが、表の上では別物です。JetKVMの取り込み(1080p60)と有線LAN(100M)は1万2千円台のNanoKVM Fullと同じで、電源操作はNanoKVM Fullが同梱なのに対してJetKVMは別売です。NanoKVM Proは取り込み・電源操作・回線のすべてで8台中の最上位に並びます。
固まったサーバーを、外から何段目まで戻せるか
復旧の作業は4段に分かれます。画面が見える、キーボードが届く、電源ボタンを押せる、OSを入れ直せる。最後の段はISOファイルをUSBメモリやCD-ROMのふりをして相手に見せる仮想メディアの機能で、これがあると現地でUSBメモリを挿さずにインストーラから起動できます。8台が公式の情報でどこまで行けるかを並べました。
| 製品名 | 画面 | キー入力 | 電源ボタン | 仮想メディア |
|---|---|---|---|---|
| KVM-A3 | 可 | 可 | 可(同梱) | 可 |
| NanoKVM Full | 可 | 可 | 可(同梱) | 可 |
| AweSun Q1 | 可 | 可 | 不可 | 記載なし |
| PicoKVM | 可 | 可 | 買い足せば可 | 可 |
| Comet | 可 | 可 | 買い足せば可 | 可 |
| Comet PoE | 可 | 可 | 買い足せば可 | 可 |
| JetKVM | 可 | 可 | 買い足せば可 | 可 |
| NanoKVM Pro | 可 | 可 | 可(ピン直結) | 可 |
仮想メディアの列の根拠は、SipeedのwikiのNanoKVM(Emulated USB Storage)とNanoKVM Pro(Simulated USB ISO)、Luckfoxのwiki(USB Mass Storage Emulation)、GL.iNetの製品ページ(UbuntuのISOをアップロードしてマウントし、OSを入れ直す使い方の説明)、PiKVMの公式文書(仮想CD-ROMやフラッシュドライブでOSを入れ直せる)、JetKVMの公式文書のMount Drive(読み取り専用の仮想CD/DVDやディスクとして見せる機能)です。AweSun Q1は、確かめたメーカーのページに記載が見当たらなかったので「記載なし」としました。できないという意味ではありません。
この表で見るべきは3段目です。2段目まではどれも届き、画面とキーボードがあればBIOSの設定も、ログイン画面からの手作業での復旧もできます。ところが、カーネルごと固まってキーボードにも反応しない機械は、電源を落とすしかありません。3段目が不可のQ1は、その時点で現地へ行くかスマートプラグで元から切ることになります。
4段目は回線の速さが効いてきます。6GBのインストーラのISOを送るとき、100Mbpsなら計算上で約8分、1Gbpsなら1分弱です。実際にはこれより遅くなりますが、10倍の差はそのまま残ります。100MのNanoKVM FullやJetKVMでも入れ直しはできますが、待ち時間は1G機の何倍にもなります。
買う前に確かめること
PoE対応の2台をLANケーブル1本で動かすには、ハブ側がPoEで給電できる必要があります。手元のハブが対応していなければ、PoEインジェクターを間に挟みます(Comet PoEはUSB-Cからの給電もできます)。2台の「気になる点」に書いたとおりで、ハブを含めて考えておく必要があります。
外出先から入るなら、IP-KVMのWeb画面をルーターのポート開放でインターネットへ直接出すのは避けます。この機械はキーボードと電源ボタンを握っているので、乗っ取られたときの被害がふつうのWebサービスより大きくなります。GL.iNetのCometと、SipeedのNanoKVM Full・NanoKVM ProはTailscaleへの対応を公式にうたっていて、VPNを自分で組まずに外から入れます。それ以外の機種でも、自宅のVPNを経由すれば同じことができます。初期パスワードの変更と、ファームウェアの更新を続けることは、どの機種でも前提になります。
SSHで届くうちはSSHで済ませ、届かなくなった後のためにIP-KVMを置いておく、という分担が現実的です。普段の作業はSSHで済ませ、IP-KVMはその手前、SSHが落ちている間の保険にあたります。
中身の半分はHDMIの取り込みなので、画面を見るだけでよく、キーボードは手元のものを相手に挿せばいい、という状況ならキャプチャーボードの比較記事の機種でも足ります。ネットワークの向こうから見るか、ケーブルの届く範囲で見るかで分かれます。
まとめ:判断の順番
解像度の大きい数字から入ると、電源ボタンに届かない機種を選びかねません。次の順で絞れます。
- 固まった機械の電源を外から入れ直したいか。したいならQ1を外し、同梱か買い足しかを総額で比べます
- 相手のケースを開けてフロントパネル端子に配線できるか。開けられないなら電源操作は諦め、画面とキーボードの範囲で選びます
- OSの入れ直しまで外でやるか。やるなら仮想メディアの記載がある機種に絞り、ISOを送る回線として1Gの機種を優先します
- 給電をどうするか。PoEのハブがあるならComet PoEかNanoKVM Pro、ACアダプターを増やしたくないならPicoKVMです
- 4Kが要るのは普段使いのときだけ。復旧だけなら1080p60で足ります
この記事の数値は各社の公式仕様ページとPiKVM・Sipeed・Luckfoxの公式文書に載っている値です。8台を手元に並べての実機検証はしていません。遅延や相手のマザーボードとの相性のように、つなぐ機械によって変わる部分は公式の仕様からは読み取れないぶんが残ります。